地久節を奉祝いたし、両陛下のご健勝と皇国の弥栄を謹んで祈念いたします。
皇后陛下お誕生日に際し(平成24年)
問1 東日本大震災から約1年7カ月が経ちます。古里に帰れない被災者は多く,復興への道筋は簡単なものではありませんが,今年はロンドン五輪で日本選手団が大活躍し,日本を元気づけた年でもありました。皇室に関連しては,「女性宮家」の創設が政府で検討される中,皇太子ご夫妻の長女・愛子さまは,おひとりで元気に通学されるようになり,秋篠宮家では長女・眞子さまが英国留学され,来年には次女・佳子さまが大学進学をされる節目の年となります。長男・悠仁さまも小学校進学を控え,健やかに成長されています。この1年を振り返ってのご感想をお聞かせ下さい。
皇后陛下
東日本大震災からすでに1年7ヶ月が経ちましたが,質問にもありましたように,復興への道のりは険しく,被災した多くの人々が,今も各地で苦しい生活を余儀なくされています。痛ましいことに,災害以来これだけの月日が経っておりますのに,行方不明者の数は今も2千7百名を超え,家族の人々の長引く心労を思わずにはいられません。また,目に見えぬ放射能の影響下にある福島や周辺地域の人々の不安には,そこを離れて住む者には計り知れぬものがあると思われます。どうかこれらの人々が,最も的確に与えられる情報の許(もと),安全で,少しでも安定した生活が出来るよう願うと共に,今も原発の現場で日々烈しく働く人々の健康にも,十分な配慮が払われることを願っています。
今年は4年に1度の五輪と障害者五輪がロンドンで開かれ,多くの日本選手が立派に活躍し,私どもに心楽しい興奮と,少し眠い数週間を贈って下さいました。被災地の人たちへの大きな贈り物でもあったでしょう。
この五輪の時期を含め,今年の7,8,9月は例年にも増して暑く,とりわけこのような高温に慣れぬ北海道や東北の人たちにとり,辛い夏であったと思います。集中豪雨も多く,昨年に引き続き西日本の各地が大きな被害に遭い,被災者の中には今なお避難生活を続けている人のあることを案じています。8月には南海トラフ巨大地震の被害想定が発表され,大災害の可能性の高いこの列島に住む私どもが,どんなに真剣に災害につき学び,かつ備えねばならないかを,深く考えさせられています。
皇室では,6月に三笠宮寬仁親王が薨去され,三笠宮同妃両殿下お始め,ご家族の皆様の深いお悲しみをおしのびいたしました。お若い女王殿下方が,どうか健やかにこれからの人生を歩まれますよう祈っております。
この1年の記憶に残る出来事の一つとして,先述の五輪,障害者五輪における日本選手の活躍と並び,スカイツリーの完成がありました。日曜日の朝,よく陛下と散策中に東御苑の本丸跡に登り,近くのビルの上に少しずつ姿を現し,やがて完成に向かう姿を見ておりました。関係者の細やかな注意により,高所で働く人の多いこの大工事が,大きな事故もなく終了したことに安堵と誇りを覚えます。
新しい横綱の誕生も,今年のよい報せでした。これまで一人横綱を懸命に務めて来た白鵬関の長い間の苦労を思っています。
世界の出来事としては,世界の人口が遂に70億に達したこと,打ち続く世界経済の不況と失業率の上昇,長引くシリアの内戦や各地のテロ,とりわけシリア内戦における日本の女性ジャーナリストの惜しまれる死などを記憶しますが,喜ばしく,又驚くべきニュースの一つとして,日本の学会もそのことに関わった,ヒッグス粒子の発見がありました。今から3年前の夏,何名かの日本のノーベル賞受賞者の方々のお招きにより,陛下のお供で筑波で開かれたアジア・サイエンス・キャンプに参加した折,ポスターセッションでこのヒッグスという珍しい言葉に何度か出会っており,十分に分からぬながらも「知ってる,知ってる」という感じで,一入(ひとしお)嬉しく思ったことでした。
この回答を書いております今,山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞の嬉しいニュースが入ってまいりました。山中さんの許(もと)で,又,山中さんのこれからのご研究の上に,これから更に幾つもの業績が一つ一つ重ねられ,難病の患者方を始め,苦しむ多くの人々の幸せにつながっていくことを願っています。
問2 天皇陛下は昨年11月に気管支肺炎で入院され,今年2月には心臓の冠動脈バイパス手術を受けられました。皇后さまは献身的に付き添われ,大変ご心配になったと思います。当時のご心境や,具体的にどのようにお支えになられたかをお教えください。陛下は無事に回復され,英国ご訪問や被災地ご訪問など以前と変わらないペースで公務を続けていらっしゃる印象ですが,来年には80歳を迎えられ,健康面では今後一層の配慮が必要になります。お元気に公務を続けるために,両陛下はどのような健康管理をされていらっしゃいますか。
皇后陛下
2回にわたる御入院生活,とりわけ心臓の冠動脈バイパスの御手術の時は,不安でならず,只々お案じしつつお側での日々を過ごしておりましたが,全期間を通じ,東大,順天堂,二つの病院の医師方が,緊密な協力のもと全てを運んで下さいましたことは,有り難く,本当に心強いことでした。力を尽くして治療に当たって下さった医師や医療関係者に深く感謝すると共に,皇居や各地で陛下の御回復を祈って記帳して下さった方々を始め,心を寄せて下さった国内外の多くの方々に,心から御礼を申し上げます。
よい御手術をお受けになりましたのに,陛下には術後お食欲を失われ,結果的に胸水がいつまでも残り,御退院後2度にわたり,胸水穿刺(せんし)をお受けにならなければなりませんでした。一時は,これで本当によくおなりになるのだろうかと心配いたしましたが,少しずつ快方に向かわれました。そして執刀して下さった天野先生が御退院時に言われたとおり,春の日ざしが感じられるようになった頃から,御回復のきざしがはっきりと見えてまいりました。歩行が日増しにしっかりとおなりになり,3月にはご一緒に御所の門を出て,ノビルやフキノトウを摘みにいくこともできました。
何よりも安堵いたしましたのは,陛下が御入院の前から絶えずお口にされ,出席を望んでいらした東日本大震災1周年追悼式にお出ましになれたことでした。5月の御訪英も間ぎわまで検討が続けられたようでしたが,実現いたしました。ウィンザー城で御対面の女王陛下も日本の陛下もお嬉しそうで,お側でお見上げしながら,私もしみじみと嬉しゅうございました。
陛下や私の,これからの健康管理については,これからも医師や周囲の人々の助けを得,陛下の御健康を尚一層,注意深くお見守りしつつ,しかし全般的にはこれまでとさほど変わりなく過ごしていくことになると思います。
季節と共に美しく変化する自然に囲まれて日々を送ることが出来る幸せに感謝しつつ,特に痛かったり,不自由の感じられる体とも何とか折り合って,心静かにこれからの日々をお側で送ることが出来ればと願っています。
問3 宮内庁は4月,両陛下のご意向を受けて,土葬から火葬への変更を含めた喪儀方法の見直しを検討すると発表しました。生前にお決めになったことで時代の変化を感じ,自身や家族の人生の終え方について考えるきっかけになった国民も少なくありません。宮内庁幹部の会見では,両陛下が喪儀の簡素化を望むお気持ちがあることから検討が始められたと伺っております。また,皇后さまが陛下とご一緒の合葬の方式はご遠慮すべきだとお考えであることも伝えられています。ご喪儀の見直しについて,陛下とどのようなお話をしていらっしゃるのかお聞かせください。
質問3については,宮内庁としては,事柄が両陛下のご喪儀に関することであり,この問題に対するお気持ちを皇后陛下のお誕生をご慶祝する日にお示しいただくことは適切ではないと判断し,別の機会にご回答いただき,お伝えすることとしました。
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弥栄。
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